FC2ブログ

記事一覧

ギジレン島ボツ台本

まるまるボツになった『ギジレン島最期の7日間』の台本です。
ブログに上げて供養します。


○7年くらい昔の話 高橋という男

ここはギジレン島 波の音が聞こえる
鼻歌を歌っている女生徒 歌いやめると少し考えて、

女生徒「毎日を生きよ、あなたの人生が始まった時のように・・・。誰の言葉だったっけ」
高橋「ゲーテ!」
女生徒「・・・高橋君」
高橋「『若きウェルテルの悩み』とか『ファウスト』とかのゲーテが遺した言葉だよ。いい言葉だと思う。今産まれた、と思えば過去は精算されて、俺たちは前を向くしかないだろ?」
女生徒「高橋君、本、読むんだ?」
高橋「読まない!」
女生徒「ええ?」
高橋「読書家みたいでかっこいいだろ。だけど俺は本は読まない。コスパが悪いからな。映画も見ない。ネットであらすじだけ読んで、見たことにしてる」
女生徒「かっこいい・・・かなぁ」
高橋「読んだ本の多さとか、見た映画の多さでマウントとる奴がいるけど、とんだ人生の無駄遣いだと思うんだ。大切なのはそれを通じてなにを得たか、だろ?」
女生徒「わかるようなわからないような・・・だね」
高橋「だから俺はゲーテなんか読んだこともないしこれからも読む気はない。でもファウストの内容は大体知ってる。『若きウェルテルの悩み』がどんな話か知ってる? ウェルテルは悩んでるんだ」
女生徒「そのまんまじゃん」
高橋「そのまんまだよ。それ以上に知るべきことなんてなにもない。大切なことは全部、NAVERまとめに書いてある。知ってる? NAVER(ネイバー)はもともと韓国の会社なんだぜ。LINEはその傘下の会社がやってるんだ」
女生徒「うわあためになる」
高橋「それと俺はこれも知ってる」
女生徒「なに?」
高橋「お前も悩んでるだろ」
女生徒「お前もって、高橋君も?」
高橋「いや俺に悩みはない。悩んでるのはお前とウェルテル」
女生徒「・・・なんでそう思うの?」
高橋「悩んでない人間は海辺で独り言なんかつぶやかないぜ」
女生徒「高橋君、変わってるって言われない?」
高橋「言われないぜ。友達がいないからな。そんなこと言ってくれる奴はどこにもいない」
女生徒「・・・私も」
高橋「知ってる」
女生徒「高橋君ぐらいだよ、私なんかに声かけるの」
高橋「それも知ってる。だから悩んでるんだろ」
女生徒「・・・私、さ。卒業したら東京行くんだ。東京行って、誰も私を知らない場所で、誰かと知り合う前に、整形するの」
高橋「美容整形ってやつ?」
女生徒「この顔のせいでさ、この島ではろくな思い出がないから」
高橋「だけど高いんだろ? そんな金あるのか」
女生徒「アフィリエイトでこつこつ貯めてたから」
高橋「アフィってお前・・・まさか」
女生徒「そう。NAVERまとめ」
高橋「ハハハ! すげえ! 運命みたいだ」
女生徒「ね・・・ちょっと運命みたい」
高橋「お前がもし美人だったら、俺はときめいてたかもしれねえ」
女生徒「うるせえクソ高橋クソ。だから整形すんの!」
高橋「おう。応援するぜ」
女生徒「美人になって、東京で男いっぱい騙して、おいしいものいっぱい食べて・・・」
高橋「太るぜ?」
女生徒「男の金でライザップに行って・・・」
高橋「夢が具体的だな」
女生徒「こんな島のことなんか忘れて楽しく生きるんだ」
高橋「いいと思うぜ、そのがむしゃらな生き方」
女生徒「でも今日、高橋君が話しかけてくれたことだけは、ちゃんと覚えておこうと思う」
高橋「俺もお前の今の顔をちゃんと覚えておくぜ」
女生徒「やだ、忘れてよ。こんな顔」
高橋「はなむけにお前にひとつ言葉を贈るぜ。えーとなにがいいかな」
女生徒「いいって。どうせNAVERに書いてあるんでしょ?」
高橋「『重要なのは生きることであって、生きた結果ではない』」
女生徒「・・・誰の言葉?」
高橋「ゲーテだ!」
女生徒「ゲーテばっかじゃん(笑)」
高橋「お気に入りってやつだ。じゃあな、見送りには行かないぜ。迷惑だろ?」
女生徒「うん」
高橋「じゃあまた」


〇現在のギジレン島 波の音が聞こえる


八島「毎日を生きよ! あなたの人生が始まった時のように…。毎日を……人生が、始まった時のように。…本当にいい言葉。どんなに辛い時も、私を支えてくれた言葉。今日が人生の始まりならば、どんな困難も乗り越えるためにあると知る。今日が人生の始まりならば、これが私の産声だ。今日が人生の始まりならば、人生はきっと、楽しくなる一方だ。そのための歩みを今、始めたのだから。…『毎日を生きよ。あなたの人生が始まった時のように』……この言葉が今ほど虚しく響いたことがあっただろうか。いや、ない。反語。だって私の毎日は、あと7日で終わってしまうのだから…」
島民1「ひゃ~本当だ」
八島「え?」
島民1「海辺でどえらい美人が独白してるって言うからよ。来てみたらこりゃあびっくらこいた。本当に美人だねえ」
八島「あ、どうも…」
島民2「言った通りだろう?」
島民1「うんすごいや。お姉さん、観光かい?」
八島「いえ、そういうわけでは」
島民2「観光なわけねえだろ。あと7日で死ぬって時によ、こんな島」
島民1「そうかな? だってこの島以外ぜんぶ滅亡しちゃったんだろ?」
島民2「逃げてきたのかい? 東京かな。あんた都会の女のにおいがする」
島民1「え? クンクン」
八島「東京です。でも私、この島の出身なんです」
島民2「ええ? そうだったの? いつごろまでいたの」
八島「高校の卒業と同時に島を出ました」
島民2「あれえ~、小さい島だからなあ、顔は覚えてるつもりだけど、こんな美人いたかな」
島民1「においなんてするかな?」
島民3「ほら、あそこ」
島民4「ひゃ~本当だぁ」

島の人々が集まってくる がやがや

老人「天女じゃあ」
島民2「こちらのお姉さん、この島の出身だってよ」
島民3「え? どこの子だよ」
島民4「こんな子いたっけな」
八島「あの、高橋くんは」
島民3「あ?」
八島「高橋ケンジくんはまだ、この島にいるのでしょうか」
島民4「高橋? 高橋ケンジならずっといるよ。あいつはこの島出たことないんじゃないかな」
八島「本当ですか! あの、彼はどこに」
島民4「前から住んでるところだよ、三本杉の交差点の」
島民2「高橋ならそこに来てるぞ」
八島「えっ!?」
島民2「ほら、そこに」
八島「高橋く…」

小さな赤ん坊を抱えた高橋が立ってる

高橋「……誰?」
八島「……子ども?」
高橋「子供」
八島「えー…結婚したんだ」
高橋「いやだから、誰?」
八島「……毎日を生きよ。人生が始まった時のように」
高橋「…ゲーテ?」
八島「……」頷く
高橋「もしかしてお前」
八島「……そう、私」
高橋「ゲーテ!?」
八島「違う! 死ね! クソ高橋クソ!」
高橋「ドハハハハハハいてえ、やめろ。わかったよ。八島だろ? クソとクソで人の名前挟むのなんかお前しかいねえ」
島民たち「えっ」
八島「ムーーーーー」高橋をつねる
高橋「いてえって。しかしすげえな。面影もねえ」
八島「全部で600万かかった」
高橋「ろっぴゃく。すげえな。ハハ、金で顔が買える時代か」
八島「どう?」
高橋「は?」
八島「だからどう? って。この顔」
高橋「いいんじゃねー。東京っぽいよ」
八島「なにそれ」
島民1「お、おいケンジよう」
高橋「ん?」
島民1「この人、八島つったか?」
高橋「そうだよ八島」
島民たち「ええっ!!」
島民3「や、八島ってあんたまさか」
島民4「ブ、『ブスのさらら』か!?」
八島「……」
島民2「どうなんだ!? まだ信じられねえ。あんた本当にあの、『ブスのさらら』なのか?」
八島「……はい」怒
島民1「う、うそだーーー! 俺は信じねえぞ! あんなブスがこんな、だってあれほどのブス、そうそうお目に」
八島「ブスブスブスブスうるせえなあ!」
島民1「ひいい!」

島民たちヒソヒソ「まさかあのブスのさららが…」

八島「だから嫌いなの。この島」
高橋「八島お前、ずいぶん気い強くなったんじゃないの」
八島「悪い?」
高橋「悪くねえ悪くねえ。自信が持てたってことだろ。猫背も治ってるし」
八島「バカにしてる? 作り物の顔で得た自信だって」
高橋「まさか。その顔はもうお前のもんだろ。いいじゃねえか。つくり以上に顔つきが変わってるよ」
八島「……ありがと」赤面
高橋「帰ってきたんだな。こんな土壇場に。東京はもう海の底か?」
八島「うん。あのさ、高橋」
高橋「ん?」
八島「あたし、あんたに」

声「お姉ちゃん!」

声がした方を向くと妹がいる。駆け寄る妹

妹「お姉ちゃん!!」
八島「きらら! よかった生きてたんだ!」
妹「生きてるよ~~! お姉ちゃんこそ無事で良かった!」
八島「ごめんね、連絡できなくて」
妹「しょうがないよ。もう電波とかないもん」
島民3「おお…八島姉妹が」
島民2「昔はそっくりだったのに」
島民4「まるでビフォーアフターだ」
妹「お姉ちゃん、今日はうちに泊まるでしょ?」
八島「あ、あー…」
妹「ごめんね。お姉ちゃんの部屋、今はプラレールが占領しちゃってるんだけど、すぐ片付けるから。ねー東京のこといっぱい聞かせてね!」
八島「う、うん」
妹「すぐ帰る? それともいろいろ見て回る? 全然変わってないけどね。お姉ちゃんが出て行ってから」
八島「あ、あのさー高橋」
高橋「おう」
八島「結婚したんだ?」
高橋「したぜ。嫁さんはいまうちで寝てる」
八島「…そっか」
高橋「二人目がおなかにいてさぁ、予定日が来週なんだよ。最悪のタイミングだろ。生まれるか死ぬかって瀬戸際でさ。はは、笑えねー」
八島「笑えねー……」
高橋「毎日を生きよ。あなたの人生が始まった時のように。残りの7日間、お前は実践するだろ。生まれ変わった顔と心で」
八島「……やってみるよ」
高橋「死ぬってわかってからやっと気づいたよ。生きてるってことに。お前はずっと前から気づいてたんだな」
八島「……そうだね」
高橋「いいこと言うだろ。これは受け売りじゃないぜ。俺のオリジナルだ」
八島「うん」
高橋「またな。おーいおっさんたちいつまで見てんだよヒマか」
妹「いこっか」
八島「……」
妹「……お姉ちゃん?」
八島「……」
妹「(泣いてる…?)えっ、お姉ちゃん、大丈夫?」
八島「私の青春が、今死んだ」

波の音が聞こえる
スポンサーサイト



コメント

コメントの投稿

非公開コメント